画竜点睛人語を聞かず

いよいよ、この連載も大詰めである。ここまで辛抱してお読みくださった方は、作者とこのパソコン以外に何人いらっしゃることだろう。きっと、世界に一人だけ、にちがいない。それは、……あなたかもしれない。心より感謝する。
さて、会長さんに伝えられた道筋は、どうやらそんなに遠くないように感じられた。いや、来たときよりも短く感じるくらいだから、ほとんど変わらない。気が付いたら、所轄署の防犯係の部屋にいた。いつものように「ノックの必要はありません」と書かれたドアから入る。Aさんは、にこやかに聞く。「ずいぶんかかったね、話し込んじゃってたの?」。すっかりお見通しであった。「へへーっ」マリオは、図らずも土下座しそうになっていたが、ギリギリのところで踏みとどまった。
Aさんの前に、会長さんからいただいたものを広げて見せる。Aさんは、鑑札を手に取ると、いくつかの注意事項を説明しながら、鑑札に魂を吹き込み始めた。まさに、荘厳なイニシエーションと見えた。みるみるうちに鑑札は輝きを増し、存在感を主張しだした。その後、どこをどう歩いて帰ってきたのか、マリオに定かな記憶はない。
しかし、いま、マリオがこの記録をしめるに当たっての言葉を入力しているところを見るに、ちゃんと帰ったに違いない。
鑑札を見せたときの、家族の感動の言葉を、マリオは忘れることができない。
「見えないところに貼ってね」・・・、そう、太陽に匹敵するほど、あまりに神々しくて、長く見つめていると、視力が落ちるかもしれない、それを心配しているのだろう。
マリオは、鑑札についた指紋をそっと拭き取り、引き出しにしまうのだった。

・・・・完・・・・