倍々ゲーム

1990年――。世はまさにNECのPC98時代であった。
マリオの周囲には、NECユーザしか見あたらなかった。アランケイの崇高なる理念に耳を傾けるものなどいなかったといえよう。そんな時代に、ダイナブックを買ったマリオにその使い方を教えてくれたのは、「パソコン通信」であった。当時はまだインターネットなるものがなく、中央集権的サーバーとデータをやりとりするというパソコン通信というものしかなかった。非常に分かりやすかった。「だって、通信だもん」
通信っていうからにはさぁ、こっち側とあっち側があって、こっちからあっちに情報を伝えることでね、あっちからの情報をこっち側にもらうことなんだもん。わかりやすいよね。ちゃんと、サーバーというのがあって、ユーザーはそれにつないで、情報のやりとりをするんだから。・・・ね、わかりやすいでしょ。
それに、パソコン通信の世界って、熱心な方が多くて、まるで修行僧か伝道師の集団の様だったから、質問すれば、じつに丁寧に教えてくれた。それが、いまのマリオの血となり骨となっているといえる。え? 肉? 肉は、贅肉としか言えそうにない。しかも、このサーバーを作るソフトはオンラインで配布もされていた。つまり、誰でもがその気さえあれば、サーバーを運営できたのだった。だから、いわゆる「草の根ネット」が雨後の竹の子状態に現れては消えていった。
さて、インターネットである。この、ネットとネットのネットワークというインターなるネットワークたるインターネットなんざ、これは、もう、禅問答です。だって、ユーザーたるわたくしめはは、いったいどのネットに属しているのだろうって、まず考えますね。幸運にも、自分の属するネットがわかったとして、それでは、今つながっているネットって、どのネットかがわからない。まるで、原子の周りを回っている電子が、ある時期から、あろうことか粒々じゃなくって、雲みたいな、さらにいえば、確率的な存在にまで昇華されてしまったのと、どこか似ているような気がする。
ネットが確率になってしまったのかもしれない。
そうだ。この連載の最初の頃に書いた、「フォートランを勉強するとギャンブルに役立つ」という風評は、もしかしたら、エセ情報でも何でもないのかもしれない。単なるガセネタなのかもしれない。ようやく、のどのつかえが取れた思いがするのであった。