絵のない自画像-3

それは、密やかに進行していた。

ビル・ゲイツの読み方気の遠くなるほどの時をかけて、巨大な大陸が漂流したように、このとき地殻変動が、徐々にしかし確実に進行していたといえよう。
そう。まさにMS-DOSの登場前夜であった。
グリーンサイクルのマリオが卒業した翌年、1981年。DOSはその全貌を現した。抜き身のバージョン1.0である。その誕生の日を「DOS記念日」としたMS.ビル・ゲイツは、和歌を詠んで赤飯を炊き祝ったという。(彼の名誉のためにも念を押しておくが、ビルはSMでもゲイでも決してない。このことは、誰もが知るところであろう)
しかし、当時、浅草でヤクザ映画ばかり観ていたマリオにとって、ドスはその筋の人たちが、親にもらった大切な小指を短くするときに必要な小道具、ぐらいの認識しかなかった。あくまでもコンピュータは、フォートランがベーシックであり、ドスなどは自分からはほど遠い暗黒の世界のお話でしかなかった。暗黒はしかし徐々にその触手を伸ばし、マリオの世界へと侵蝕を始めていた。田舎育ちの純朴さを失っていなかったマリオには想像もつかない絵空事でしかなかった。先を急ごう。